※ネタバレ 『アメリカの友人』/1977/監督:ヴィム・ヴェンダース/独・仏/カラー/2012.1.13記 ----------------------------------------------------------------------- いま、「アメリカの友人」を観る。 デニス・ホッパー演じるカウボーイハットの男リプリーは、常に孤独を感じていた。家族もいない、一匹狼の犯罪者。 死亡した事になっている画家本人に、彼自身の贋作を作らせ、絵画の投機を行うバイヤーのリプリー。常に彼はカウボーイハットを被っていた。ある日、知り合いのミノという男から、マフィア絡みの男を殺しても足のつかない者を探していると相談されところ、過去に悪態をつかされた男を利用することを提案する。白血病を患う額縁職人ヨナタンであった。 違法な絵画のバイヤーであるカウボーイハットの男と額縁職人はこうして再会する事になる。 段取りも用意し、素人ならマフィアに足がつかない。ミノはヨナタンを嘘の診断書で死期が近いと信じさせ、残される家族の為に治療費とひきかえに殺人を依頼する。ヨナタンの素行調査と監視も含めて接触し、偽りの友情を演じるカウボーイハットの男。だがリプリーは接触を繰り返すうちに、ヨナタンに偽りではない友情を感じるようになる。 家族のなかにあり、家族のために必死になるヨナタンに、家族を知らず、孤独な境遇に育ってきたリプリーはヨナタンという男に、次第に嫉妬と憧憬を感じるようになったのだ。 遂には捨て駒同然の危険な第二の殺人依頼実行の際、本来なら失敗してその場で死ぬ運命にあったヨナタンを、彼のことが心配になったリプリーは助けてしまう。はた目から見れば理解しがたい行動だ。悪口を言われたくらいで利用することを決めた癖に、その男に友情を感じるようになり、ましては肩入れし運命を共有しようなどと。 カウボーイハットの男自身、自分が何をしているのかわかっていないような顔を浮かべる。 彼らは追手を辛くも退け、ヨナタンら家族と共に逃げることを決意し、追手の死体を浜辺で処理するリプリー。 だがヨナタンは妻と共に車で逃げさり、リプリーを置き去りにする。 呆然と浜辺に立ち尽くすカウボーイハットの男。 第二の殺人の際に助けた時から、彼はカウボーイハットを被っていない。 夫の最近の怪しい行動から心配していた妻から偽の診断書が露呈したことで、ヨナタンは全てを悟ったのであろう。 乾いた笑いをヨナタンは浮かべ、彼らを乗せた車は蛇行する。制御を失った車体は堤防から海へ突き抜けようとする。 寸前に妻がサイドブレーキをかけた時には、停まった車内でヨナタンは既に永遠の眠りについていた。 偽りの友情は終わり、カウボーイハットの男は孤独になった。 不遇の時期のデニス・ホッパー。彼は後年悪役が多く、目が常にギラギラしてキテる奴のイメージがあった。然し彼の目の演技にはどこかいつも寂しさがつきまとう。純粋な悪党役でも、この目がキャラクターに奥深さを与えている。この映画で彼は暖かさに飢えた孤独な男を演じている。デニス・ホッパーの目の奥に潜むカウボーイハットの男が吐露しているかの如く、だ。アメリカの威信が崩れた時代の映画である。 カウボーイハットの男の孤独。 「アメリカの友人」との友情は、偽りのまま、終わった。 *トリビュートビデオ ----------------------------------------------------------------------- 執筆:ヒロト |
2012年1月13日金曜日
映画 『アメリカの友人』 威信が崩れた時代、カウボーイハットの孤独
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