『パンドラの箱』/1929/監督:ゲオルク・ヴィルヘルム・ハープスト/独/モノクロ/2012.1.14記 ----------------------------------------------------------------------- 運命の女・ルル。 彼女の無邪気で妖しげな魅力は無意識のうちに関わるものを彼女の虜にし、そしてその者を、また彼女自身をも破滅に追い込んでいく。 全てを失い、最後に身をおいたロンドンで街娼とまで成り果てた彼女が始めて客として引き入れ、どこか惹かれるものを感じた相手、それは当時最もロンドンを恐怖に陥れていたあの… 本作はサイレント映画最末期にヴァイマル体制下の不況にあえぐドイツで製作された。 ヒロイン演じるは監督をして「私のルルを見つけた」とまで言わしめたハリウッド女優ルイーズ・ブルックス。彼はこの映画のためにわざわざドイツに招待した。もし、彼女に出会わなければルル役はグレタ・ガルボが演じることとなっていたというからこれは驚きの大抜擢だったわけである。それ程に言われるだけあって彼女はまさに『狂乱の1920年代』を体現するかのように当時の映画的モラルからすれば確実に逸脱した奔放な性表現を大胆に演じており、検閲の厳しかったハリウッド映画が描ききれなかった当時の性も含めた大衆文化を画面から生々しく感じさせることに成功している。 また映画の舞台にもそれは言え、上流階級の祝祭や失業者で溢れかえる盛り場などで描かれる人々は、貧富の差はあるにしろ国内情勢への不満からか、一刻の宴に現実を忘れんとばかりにとにかく享楽的に楽しみ、タバコの煙で会場が霞む中酒に溺れ騒ぎ立てる姿が映し出されているのが印象的であった。当時のドイツ映画の多くに言えることではあるものの、特にヴァイマルからナチス台頭までの期間の生活感や価値観がこの映画では強く画面から伝わってくると感じるのは私だけではないはずだ。 この映画の大きな魅力の一つとして、ヒロインを演じたルイーズの多彩なコスプレの数々がある。監督の思いの入れが否応なしに伝わってくるほど様々な衣装を着こなしており、これまたブルックの美しさと当時のファッションを楽しむことができ、映画のアクセント作りに華を添えている。 ルイーズはこの混沌渦巻くドイツの街をいたく気に入り、撮影中何度も夜の街へ遊びに出ており、撮影終了後も活躍の場をここに置くことになる。 また、当時の検閲機関はこの作品以後、ブルックス出演作品への規制強化を取り決めたと言われている。 運命の女・ルルは演じた者の人生にすら大きな影響を与えることとなったのだ。 ----------------------------------------------------------------------- 記:御花畑るん |
2012年1月14日土曜日
映画 『パンドラの箱』 検閲すら魅了した運命の女
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿