2012年2月26日日曜日

映画 『アッシャー家の末裔』 音を感じさせるサイレント





 『アッシャー家の末裔』/1928/監督:ジャン・エプスタン/仏/モノクロ/2012.2.25記

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 アッシャー家当主ロドリックに誘われた、彼の友人が訪れた不気味な洋館。友人がそこで目の当たりにしたのは、何者かに取り憑かれたようにして、妻の姿を描き続けるロドリックだった。不思議なことにロドリックの描く肖像画が美しく再現されていくごとに当の妻は生気を失っていくのだった……。エスプタンが実験的に撮影した映画と言われ、原作はエドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』をベースに『楕円形の肖像』と『リジーア』を加えアレンジされている。





 サイレント末期の傑作と謳われる本作はそれまで撮られた数々の怪奇幻想映画の集大成のような多彩な手法に彩られ、ポーの幻想的な世界観を見事に表現している。 映画を詩に例えたエスプタンらしく、荒廃的でありながら美しく描かれる舞台や表現がとにかくゴシックホラー好きな私をグイグイと画面に惹きつけてくれるのだ。


 不気味な生き物が映し出されながら描かれる漆黒の闇に包まれた階段、蝋燭が無数に立ち並び甲冑や柱時計に囲まれた鎖だらけの洋館……。これをまた影とアングルを多用した構成で映し出すため奥行きを異常に広く感じさせ、こちらの不安感を煽ってくれるのだ。後に撮られた『魔人ドラキュラ』のドラキュラ城を彷彿とさせる、この演出は当時としては非常に斬新なものであったのではないだろうか。


 演出部分にも様々な工夫が見られる。どちらかと言えば舞台的な動きを重視するため、役者や映画のキーとなる具体的な事例以外には動きを必要としていない感のあるサイレントにあって、実に細やかな画面の動きに気を配られており、サイレントにもかかわらず一つ一つのシーンから音が聞こえてくるような画面作りにも目を見張るものがある。





 その上、本作は映時間の短さに加え、上記で記した映像的な魅力も含め、サイレントに興味はあるもののなかなか手を出すには……という方にとって、実際に触れてみる良いきっかけとなる映画になるのではないかと思わせる映画だ。


 サイレントからトーキーになる過渡期の映画として非常に美しい。また後のゴシックホラー独特の妖しい絵作りの萌芽を感じさせる良作である。ぜひともご堪能の程を。


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記:るん


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