2012年2月22日水曜日

映画 『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』 凡庸な波





 『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』/2010/監督:エマニュエル・ローラン/仏/カラー/2012.2.20記

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 映画史でも、60年代にあらゆる革命を行ったとされるヌーヴェルヴァーグ運動の旗手「フランソワ・トリュフォー」監督と「ジャン=リュック・ゴダール」監督、そしてその間に挟まれて苦悩した俳優「ジャン=ピエール・レオー」を中心に描いたドキュメンタリー映画。非常に貴重な資料映像が魅力的だが、構成はヌーヴェルヴァーグらしく、どこかちぐはぐだ。





 両監督の共通点は批評家出身の映画監督である事。違いは作風にも表れる映画への姿勢に、政治への関わり等。


 トリュフォーは愛を描き、映画が常に自由な世界である事を守る。映画好きによる映画製作者のさきがけだ。

 ゴダールは映画による映画自身への刷新。映像で思想を語る攻撃的姿勢。トリュフォーは愛がストレートに感じられるのだが、ゴダールは説明しても何が凄いのかよくわからない。一般的な映画の凄さというよりも、常に映画へテンプレを当てはめようとする流れに対して、その枠をはがし、映画を問い続ける姿勢が映画史的に大きな価値を持つ。


 正直なところ両者を語る程の舌を持っていないのだが、私が彼らから感じたのは、こうした面である。


 すなわち、映画への愛し方の姿勢の違いだ。


 紐解くと、トリュフォーは特に出自が影響しているだと勘ぐる事が出来る。貧困層出身のゴロツキだった青春時代のトリュフォーにとって映画だけが救いだったという。彼にとって映画とは愛そのものなのである。だから、彼の映画は、愛に満ちた映画という思い出をつくる事が重視されている。一方で、フランス・スイス二重国籍でブルジョワ出身のゴダール。彼は、政治的積極性と作家主義による価値の刷新という、一見するとインテリ風のアナーキーでアヴァンギャルドな芸術志向という両面性を持つ。それは彼の出自による様々な価値観に触れる機会を持った事と無関係ではないだろう。様々な価値観と彼にとって映画を問い直す事が、社会と虚構を密接に繋げる映画への愛なのだ。


 そしてレオーは、トリュフォーと同じような出自を持つ。彼に十代半ばにして才能を見出され、以後トリュフォーの分身として『大人は判ってくれない』以降、トリュフォー自身の半伝記――ないし誰にでも感じられる青春期の感性の再現――アントワーヌ・ドワネルシリーズを演じる。いわばトリュフォーは肉親的な感覚の人生の先輩としての「兄貴」だ。一方でゴダールの元では助監督として経験を積み、彼の映画を刷新し続ける姿勢と政治的姿勢に感銘し、数々のイデオロギー的映画に出演し、思想を固めていく。いわばゴダールは精神的な「兄貴」だ。




 
 やがてトリュフォーとゴダールは、「ラングロワ事件」「五月革命」「カンヌ国際映画祭中止事件」を経て、トリュフォーはメジャーな商業映画への道、ゴダールは匿名製作による社会主義運動映画という地下へ潜る。両者は互いに批判しあい、政治と映画への姿勢から対立していく。間に挟まれて、両者を慕うレオーは苦悩していくとう訳だ。

 
 ここまで書けば、三者の関係をドラマチックに描くのかと思えば、そんな描かれ方はしない。この映画は思ったよりも普通のドキュメンタリーなのだ。映画中に出演するキャラにインタビューする映像を流す等、面白い事をたくさんしていたヌーヴェルヴァーグを扱ったドキュメンタリーとは思えない程、凡庸なつくりだ。そう、普通すぎる

 
 両者監督とヒッチコック、ラングの供宴映像等、貴重な映像が盛りだくさんなので、それだけでも大きな価値のある映画だ。個人的に、もっと三者の関係をウェットに演出しても良かったと思う。もちろん、ゴダールは存命だし、貴重な資料映像を無碍にするような過度な演出は、事実と大きく異なるため、批判の的となるに違いない。逆をいえば、実際にレオーは苦悩したが、宣伝でいうほど三者の関係にドラマチックな面は無いという事だ。


 それでも、トリュフォーとゴダールを扱っているのだから、両者の特性を活かした、愛の喜劇と、コラージュ的な政治的姿勢を持ったドキュメンタリー映画にしても良かったんじゃないかと、私は悔やむのです。ふたりの子供レオー、ヌーヴェルヴァーグないし影響下にある、その後のインデペンデント系映画、演出等の孫達と同義なのだから。


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記:ヒロト


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