『蝿男の恐怖』/1958年/監督:カート・ニューマン/米/カラー/2012.2.10記 ----------------------------------------------------------------------- 深夜の工場にて奇怪な殺人事件が起きる。 被害者は物理学者のアンドレ。彼はプレス機により顔と片腕を潰されていた。現場から逃走する姿を目撃されたのは何と彼の最愛の妻であった。アンドレの兄・フランソワの説得に応じ、彼女が語り始めた真相とは信じ難いものだった… 本作の成功で続編が2本作られ、後に『ザ・フライ』としてリメイクされた古典SFホラーの名作と名高い映画である。SFXを駆使した迫力あるリメイク版異なり、クラシック映画ならではのサスペンスタッチで描かれた物静かな画面作りに重きを置いている(残念ながら続編二作は良くも悪くもいかにも50年代的で凡庸な変身怪人物になってしまっている)。 また電送機の発明者にして蝿男たるアンドレはそれまでの変異物がどことなく漂わせてしまう事の多かった狂科学者的な描かれ方はされておらず、むしろよき家庭人として家族との暖かい交流を丁寧に描かれている。その事が怪物と化してしまった彼の悲しみと苦悩をなお一層強く伝えることに成功している。 妻を怯えさせんが為に布で顔を隠し、声を発することすら出来なくなり、黒板とノックの回数でしか感情表現をする術しかなく、日に日に精神を蝿に蝕まれる彼と、彼を救わんがために悲しみにくれながらも健気に元の姿に戻す鍵となるアンドレの体の一部を持つ蝿を探す妻。そして疲労から次第にヒステリックになってしまう彼女に、事実を知るわけでもないのに優しく接する幼い息子を見ていると本作はホラーと言うよりは悲しくも美しい家族愛の物語として描かれているのではないだろうかと思えてくる。 それ故に本作のアンマスクシーンは怪人の悲壮さを強烈に感じさせ、その直後に妻への想いを黒板に必死で綴る場面と合わせ変身物映画屈指の名シーンとなっている。映像的にも、カラーを意識したレトロ映画ならではの様々な美しいSF的光学表現や特殊合成も多用しており視覚において退屈させない作りになっている。 さて、この映画において私が大好きなシーンがある。映画ラストにて幼い息子に父が死んだ理由を問われたヴィンセント・プライス演じるアンドレの兄が語るセリフである。 「探検家のようにだれも知らないことを調べて、真理を見つけたと思った時にちょっとだけ油断してしまったんだ」 真相は決しては差ないものの、決して嘘ではない、優しさに満ちた言葉ではないだろうか。 ----------------------------------------------------------------------- 記:るん |
2012年2月12日日曜日
映画 『蠅男の恐怖』 怪人と家族の絆
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