『呪いの館 血を吸う眼』/1971/監督:山本迪夫/日/カラー/2012.2.14記 ----------------------------------------------------------------------- 岸田森は吸血鬼である。 岸田森と言えば、牧史郎だったり嵐山長官だったり水島三郎だったり坂田健だったり南原捜査官だったり……ともあれ、特撮をそれなりに見ていれば必ずと言っていいくらいお目に掛かる名優の一人だ。主演だろうと助演だろうと彼は常に画面内で独特の存在感を放っている。 孤独で、寂しげで、子供向け特撮で明るい演技をしていてもどこか影のある岸田はまるで異邦人のような役者だった。 そんな彼の東宝映画における代表作に、和製吸血鬼映画『呪いの館 血を吸う眼』と『血を吸う薔薇』がある。 ハッキリ言ってしまえば日本という国は吸血鬼には似つかわしくない。日本の伝奇や怪談というのはじっとりジメジメとした人間の情を前面に押し出したものが多く、それがやはりお国柄なのだろう。対して吸血鬼というのは、鮮血は滴れどあくまでドライでクールな題材だ。実際、血を吸うシリーズの一作目に当たる『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』はあくまで和風なホラー映画だった。 それを二作目で吸血鬼映画たらしめたのは、岸田森が演じたからだ。 画面の中の彼はまさしく吸血鬼だった。要所要所で他の役者達と同様顔を青白く目の下にわざとらしいくまを入れてドラキュラメイクをするのだが、正直そんなものは必要無かった。彼の吸血鬼度を著しく損なってさえいた。彼はただ立っているだけでナチュラルボーン吸血鬼なのだ。 柏木秋子は悪夢に悩まされていた。幼い頃に愛犬と共に迷い込んだ洋館で目撃した女性の死体、薄気味の悪い老人、そして口元を血で汚した青年の金色に光る妖しい眼……。 ある日、秋子の隣家に大きな棺が運び込まれる。以来、愛犬は殺され、親切だった老爺や最愛の妹である夏子は豹変し、遂には夢で見た幽鬼のような青年が現実に現れた。 恋人である医師・佐伯の協力で失われた記憶を探る秋子。 幼い彼女が洋館で出会ったのは果たして何者だったのか……。 赤茶けた空、湖の畔、枯れ枯れのススキ野原、寒々しい森、そして洋館。 ゴジラ対ヘドラなどでお馴染みの眞鍋理一郎によるおどろおどろしい音楽。 そこに、岸田がいる。 幼い少女を自らの花嫁と見定め、十数年の月日を経てもつけ狙う悪辣な吸血鬼。 酷いロリコン野郎なはずなのに不思議とそうは見えない。 それは、彼が人間の条理から外れた吸血鬼だからだ。 佐伯は吸血鬼をキチガイ呼ばわりする。自分を吸血鬼だと思い込んでいるだけの狂信者だ、この世に悪魔なんていない、と罵る。その言葉を嘲笑うかのように、岸田森が暴れるのだ。獣の如き唸り声をあげながら、それでもどこかクールに、ダンディに立ち回る。 森の中に、洋館の階段上に、棺の傍らに。ひっそりと物静かに佇む爬虫類的で植物的な面差し。 岸田森は、やはり吸血鬼なのだ。 ----------------------------------------------------------------------- 記:みじゅ |
2012年2月15日水曜日
映画 『呪いの館 血を吸う眼』 和製吸血鬼幻想
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