2012年2月20日月曜日

映画 『アビエイター』 自由の空に縛られている





 『アビエイター』/2004/監督:マーティン・スコセッシ/米/カラー/2012.2.20記

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 資本主義の権化ハワード・ヒューズの破天荒な伝記。彼の大胆な行動とキャラクター、功績には驚くばかり。だがどこか空虚なのだ。栄光の時代で映画が幕が降りる肩すかし感からなのか。私はその”先”に何を期待したのだろう。



※上記の劇中映像を、当時ヒューズはガチでやっているのだから恐ろしい


 ヒューズといえば、膨大な製作費を投じて映画を作り、作りたい飛行機があるから飛行機会社を作って成功するような資本主義の権化と呼ばれている男である。監督作『地獄の天使』では、リアルな空戦シーンが撮りたいが為に、本物の戦闘機を87機用意した。そこまではまだいい。自分で飛行機に乗って撮影すると言い出した。そこまでもいい。でも撮影に映える為に新飛行機を開発するとか、どうなのよ。因みに彼が経営する全米でTOPを争う事になる飛行機会社は、自身の監督作に自由に飛行機を出せるように、わざわざ作った会社。有難う御座いました。






 その一方で彼は奇行で有名な男だった。極度の潔癖症により、一度手を洗い出せば、掌が血まみれになるまでこすり続ける。キャサリン・ヘプバーン等、様々な女性と交際歴がありながら、自分がフラれると癇癪を起し、元カノの衣服を燃やす尽くす。急に同じフレーズを何度も繰り返し、他人の声が聞こえなくなる。自分が決めた行動パターンに逸れると発狂する等。そこまで言及しなくても、飛行機の世界最高速度を塗り替える為に、自分で乗って、墜落して大けがする大会社の社長とか。大金も呼び込むが、こんな社長に振り回される社員は大変だ。遂にはライバル会社に社会的に追い詰められると、ディカプリオ演じるヒューズの、だいぶレアな瓶小便を全裸実演が拝める。ありがたや、ありがたや。



※実際の飛行映像


 後に破滅への一歩となる「H-4 ハーキュリーズ」も、宮崎駿映画に出てくるような大型輸送母艦で、戦車数十台を空輸するというトンデモ飛行機である。第二次世界大戦における欧州戦線。大西洋の補給ラインで猛威をふるった独逸第3帝國のUボート対策が建前だ。だが、戦時中は完成せず、戦後も何故か作り続けているので本音は違う。一見して、社長の我儘で作られたように見えるが、彼にとって、それは迫られた”作らねばならない使命”だったのだ。


 本人はやりたい事をやる為に金を稼いでいるのだと嘯く。然し、劇中では幼少時に母から受けた「進歩者たる人間像」という強迫観念が彼の背景に常に付き纏う。映画ではハワード・ヒューズは資本主義の権化に成らざるを得なかったという描き方をしている。やりたい事をやってきたというよりも、”やらなければならない”と自らに課してきたという訳だ。それでも、直接的では無いにしろ、後の大型旅客機の概念に繋がるのだからたいしたものだ。


 2004年当時の時流に沿えば、資本主義突き進むアメリカ合衆国という国自身をハワード・ヒューズという人物に重ねて描写しているとも言えるだろう。現に劇中ではスキャンダルネタに事欠かない落ちぶれた晩年を、あえて直接描写せずに、強迫観念に追われ突き進むヒューズの破滅的な予感を漂わせながら終わる。浪漫に満ちた巨大な虚ろなる翼「H-4ハーキュリーズ」が宙に舞う姿を描きつつ、その翼が二度と空を舞う事はない事実は描かずに。時は経て2012年。




 彼は再び宙を舞えるだろうか。


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記:ヒロト


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