2012年1月28日土曜日

映画 『魔女』 映画が紡ぐ悪夢的絵画





 『魔女』/1922/監督:ベンヤミン・クリステンセン/瑞/モノクロ/2012.1.27記

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 最も初期に作られたホラーと呼ばれるが、内容はホラーと言うよりは魔女の歴史を図版や再現ドラマによって説明していくといったドキュメンタリータッチの強い作品である。


 そういったわけでストーリーらしきものは魔女の生活や中世の魔女裁判、魔女文化の考察と言ったものがオムニバス的に入るくらいのものである。本作の魅力は画面に展開される奇怪極まりない美術にあり、再現ドラマにおいて登場
する悪魔達は、特殊メイクを施した役者の演技によるものの他、操り人形や人形アニメーションと思われるミニチュアによる表現なども駆使しており、それらの初期映画ならではのぎこちない動きがかえって禍々しくも幻想的な雰囲気を
醸しだしてくれている。





 また役者が演じる悪魔のメイクも時代的な制約から、かなり粗い作りで更にそういう人選をわざと行ったのかと思わせるほど腹部がぽっこりと出たものばかりが扮しており、あたかも中世の絵画に描かれた悪魔達がそのまま這い出てきたかのような醜悪さで現代の映画とはまた違ったリアリティを生み出しているのである。セットや他の演者にもその妙なリアリティは現れていて、とにかくその表現が汚らしいのだ。


 太り肥えた司祭を誘惑するお世辞にも美人とは言いがたい中年女、ボロボロの衣装を纏った老いた魔女、素手で口元をベタベタにしながらスープを貪る物乞いの老女…とにかく生理的な嫌悪を覚える表現に満ちている。 そうかと思えばシルエットを多用した幻想的で美しいシーンも随所に散りばめられており、映画全体の品格はむしろ高い映画と感じるほどである。


 この醜悪かつファンタジックな映像をどこかで感じたことがあるなと思い調べたところ、クリステンセンは後の名匠、カール・ドライヤーに多大な影響を与えたと知り、納得がいった。 登場人物の生々しい醜悪さとそこに漂う幻想的な雰囲気はドライヤーの作品『裁かるゝジャンヌ』『ヴァンパイア』で感じたものと非常によく似ていたのである。


 『魔女』の放つ観る者に悪夢へ迷い込んだような戸惑いを覚えさせる不可思議な魅力はしっかりと後の名作に引き継がれていたのである。 余談だがそれを前提に、『魔女』とドライヤーの両作品を見比べると明らかにリスペクトしたと思われるシーンが見受けられ、そういった発見も含めて作品を再度楽しむことができる。



*『魔女』原題:Haxanと同名曲「Haxan」のArcane Malevolenceによる映画引用PV


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記:るん


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