『スーパー!』/2010/監督:ジェームズ・ガン/米/カラー/2012.3.15記 ----------------------------------------------------------------------- 冴えないダメダメ中年男フランクには、人生で完璧だった瞬間が二つある。最愛の人と結婚できた事と、逃走する犯人の逃げた方向を教え逮捕に協力したこと。その最愛の妻がドラッグディーラーに取られてしまったフランクが落ち込んでいるところに神の啓示(おそらく妄想)が聞こえ、彼はヒーロー”クリムゾン・ボルト”(特殊能力なし、武器はレンチ)となって自分の妻を取り戻すため、そして世の中の悪と戦うために勝手に自警活動を始める。 この映画の中でヒーローが悪を倒すための暴力を全くかっこよく描かれていない。 むしろ悪人相手とは言えレンチで頭を血まみれになるまで殴打するクリムゾン・ボルトの姿は自身が犯罪者というか狂人そのものである。演出がどう見てもスプラッターホラー。ヒーローと悪人の暴力が全く等しいものとして描かれているのがこの映画の特徴であり、クリムゾン・ボルトは自身の主観的な正義感によって次々とレンチで人を襲う。それがたとえ映画の列に割り込む程度の悪だったとしても。 彼の行為が肯定されるかどうかは置いておくとして、しかし悪に対しての憤りや奥さんに対しての愛などフランクはむしろ純粋で優しい性格でああり、その事がこの行為の起点となっているのが面白い。 しかし、この映画のテンションを加速させる存在が、クリムゾン・ボルトがフランクである事に気づいたコミックショップの店員リビーである。彼女はクリムゾン・ボルトの相棒"ボルティー"となり、一緒に行動することにするが、独善的とはいえ純粋な正義感で動いているフランクと違い、コミックの世界と現実世界がゴッチャになっていて、感情的でとにかく悪をボコボコにできればなんでもいいと言わんばかりのボルティーの狂人っぷりはフランクもドン引きするレベル。 何せ相手を殺す勢いで躊躇なく暴力をふるい、狂喜している姿はそんじょそこらのヴィランを上回る外道っぷり。極め付けのセリフは「殺しちゃいけないと思わなかった」。ワォ!! 過激な暴力で埋め尽くされている映画ではあるが、決して暴力を肯定的に描いているわけでもなく、かといって盲目的な非暴力精神も感じない。暴力の代償についてもしっかり描かれ中立的な視点でスッキリとしない世界を生きていくしかない人々を描いている点が素晴らしい。オチも含めて爽快感などとは無縁ながらも色々な解釈が考えられるような結末など色々考えさせられる怪作。 "等身大ヒーロー"という点を追求した結果 これはもうヒーロー映画と言えるかどうかすらわからないものとなっている。 正義のあり方、暴力や狂気性と言った点で、『キック・アス』より重たく、『タクシー・ドライバー』よりはコミカルに、『ウォッチ・メン』よりだいぶ地に足ついた設定といったところだろうか? 個人的にお気に入りの場面は、ボルティー関連。完全自分の趣味の話になりますが、狂った女の子を見るのって最高に気持ちいですよね!ボルティーのあの正義を微塵も感じさせない狂気の笑いに首ったけです。あと彼女に正義はないですが、彼女の幼児体型っぷりは正義ですよね。 フランクが奥さんがいなくなった哀しみを慰めるためにペットを飼おうとするが、ペットショップに行きウサギを見ながら「自分に飼われるウサギが可愛そうだ」と言って結局買うのを断念する情けないくらいに繊細なこの場面もすごい好き。自己否定の塊っぷりに自分はもう感情移入しっぱなしでした。 ----------------------------------------------------------------------- 記:ツン |
2012年3月15日木曜日
映画 『スーパー!』 シャラップ!クライム!
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