2012年4月24日火曜日

映画 『黒い蠍』 巨匠の意地









『黒い蠍』/1957/監督:エドワード・ルドウィング/特撮:ウィリス・オブライエン/米/モノクロ/2012.4.7記



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メキシコの僻地に新火山が現れてからというもの、近隣の村が何者かによって壊滅されたり、原因不明の惨殺死体が発見されるようになる。調査に訪れた主人公の地質学者はそこで信じられないものと遭遇する。





『ロストワールド』『キングコング』などで知られるストップモーションの先駆者、「ウィリス・オブライエン」が特撮部分を最晩年に手がけた作品。物語的に言えば当時のアメリカで大量に生産されたモンスターパニックと大差ないというか、『放射能X』の丸パクリみたいな内容である。しかしそこは「オブライエン」の手にかかった作品である。モンスターの迫力と存在感は、そんじょそこらのB級怪獣とは段違いである。本作主人公怪獣・巨大サソリは実に見事に節足動物然とした動きを披露しており、まあとにかくカシャカシャせわしなく動きまわってくれる。


はっきり言ってキモい


大群なして列車はひっくり返すわ人を挟んで食い殺すわ挙句仲間割れ初めて殺して食うわ、アップで映る顔はヨダレだらだら垂らしてるわで性格が虫過ぎて愛嬌のかけらもない。


またサソリの出身地・地底世界の怪物たちも実に魅力的で、不気味に這いずりまわる尺取虫状の生き物とそれを襲うサソリとの戦いや、トタテグモの巣穴みたいなところから出てくるダニみたいな怪物等、ハリーハウゼンのセンスとはまた違ったデザインのクリーチャーが画面狭しと動きまわって実に気色悪くて素敵である。





ラストは生き残った一番でかい奴がメキシコシティに乱入してひと暴れしてくれるのだが、通常兵器にとことん弱い米国の怪獣の中では実にタフネスで対戦車砲や戦車の一斉砲撃にもびくともせず、多数のヘリや戦車を撃破する暴れっぷりである(まあ戦車はこの時代でもさすがに古いんじゃないかってM3軽戦車なんだけど)。暴れに暴れて止めを刺されるわけだが、断末魔の動きも驚くほど節足動物のウネウネとした動きを再現してくれて感動ひとしおである。


キモいけど


オブライエンが最晩年に手がけた本作と、『海獣ビヒモス』は、まさにクリーチャーが狂ったようにのた打ち回りながら大暴れするのが印象的である。既に弟子であるハリーハウゼンが活躍する中、オブライエンは過去の人間になってしまっていた。 話題になることもなく密かに撮影されていた両作は名作とは言い難くも、巨匠が最後までその手腕を振るっていてくれたことを感じさせてくれる力強さに満ち溢れた魅力的な作品なのである。





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記:るん





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