2012年4月20日金曜日

映画 『摩人ドラキュラ(スペイン語版)』 技術確立以前が生んだ怪作





 『摩人ドラキュラ』/1931/監督:ジョージ・メルフォード/米/モノクロ/2012.4.5記

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 英国の弁理士・レンフィールドはトランシルヴァニアに住む貴族・ドラキュラ伯爵の頼みを聞き彼の古城を訪れる。彼は知る由もないが伯爵は吸血鬼だった……。レンフィールドを自らの下僕にした彼は20世紀のロンドンにやってくる……。





 『魔人ドラキュラ』が撮影された1930年代はサイレントからトーキーに移行したばかりで、まだアフレコ技術などは確立しておらず、スペイン語圏への進出も視野に入れていたユニヴァーサルはスタッフ及びラテン系のキャストに総入れ替えで本作の撮影を英語版撮影班の去った深夜に同じ脚本・セットを使用し行った。本作は当時の撮影水準からしてもどことなく平坦な画面の続く英語版と比べ、非常に映画らしい動きのあるカメラワークと演出の多さで高い評価を受けている。実際役者の演技も動きが大きく非常に生き生きとしたものとなっているし、主演女優も表情豊かで英語版よりはるかに色っぽいドレスを着込んで画面に花を添えている。


 先に記した撮影テクニックも功を期して、英語版より30分程上映時間が長いにも関わらずテンポははるかに良いものとなっている。良くも悪くも本作は華々しいホラーなのだ。


 妖気漂う英語版と同じ脚本を使用しているにもかかわらず、こちらは重苦しい雰囲気を微妙に感じることができない。単調ではあるものの英語版は淡々としたゴシックホラー本来の物静かな不気味さがあるのだ。


 それでも暗闇からレンフィールドを狙うドラキュラの従者達や眼力を発するドラキュラのアップ描写など異形のものを魅力的に描く演出に、怪奇映画好きとしては陶酔感に浸ってしまう出来なのだ。


 さて肝心のドラキュラ伯爵なのだが、アクションが大胆すぎてどのレビューを見ても当然評価は低い。本作の演出でベラ・ルゴシ扮するドラキュラが見たかったという意見も多い。


 しかし私はこの作品のドラキュラはこの役者(カルロス・ヴィリャリアス)で良かったのではないかと思う。第一こんなアップテンポな画面にルゴシを置いてしまってはあの気品溢れる不気味さが伝わらず、魅力が半減してしまうかもしれないじゃないか。 画面からはカルロス本人が物凄く楽しそうに演技しているのが感じられてくるしこちらのドラキュラにだって充分ルゴシとは違う魅力を感じることが出来る。ルゴシのドラキュラが死神博士ならカルロスのそれは地獄大使。大胆不敵ながらどこか憎めないドラキュラを楽しんでみるのもまた一興なのかもしれない。


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記:るん


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